旨し国「新潟」 


 昨年夏、秋田で食いしイワガキの味忘れがたく、HPの掲示板に話題として載せたとたん、新潟の一風こと山田氏が「こっちの海でも採れますが…」と迂闊この上なき発言。この一言により、哀れ一風忙しき中を道案内に借り出されることになりき。悔やんでも後の祭りとはこのことである。


 新潟に昼前に着いた我々は、さっそく一風氏に連れられ、海に向かった。30分ほどの行程と思いきや、2時間。山形県との県境に近い「笹川流れ」と呼ばれる岩礁地帯がその目的地であった。幸い天気は良く、無風ベタ凪であったが、海に潜ると残念無念、透明度50センチであった。イワガキ獲りがはじめての私は、どんな具合に岩にくっついているのかさえ知らず、訳も分らぬまま潜るが、サッパリ見つからない。

 HPの巻頭を飾る一風氏の風貌に惑わされてはならない。あの肉を切り分けている一風氏は優しそうな、ともすると軟弱にさえ感じられる印象を受けるが、ところがどっこい、実際会ってみると彼はまことにフィジカルで骨太のアウトドアマンである。我々がダイビングスーツに腕を通しているのを横目に、さっさと海水パンツ一枚で潜り始める。そしてしばらくすると「コレ、コレ!」と言いながら、にごった海からイワガキを剥がし獲ってくる。う〜む、さすがである。結局私は小さなヤツをひとつ獲っただけに終った。

 これがイワガキである。貝殻が分厚いことを除けば、見た目は養殖ガキと変わらぬが、味はまったくもって美味この上ない。沖の岩場の上で、大きなヤツを手渡され、蓋をこじ開けてツルリと口に放り込む・・・。なんと言ったらいいのか…。カキ特有の臭みというかエグ味がまったく無いのである。ひとことで言えば「凝縮され、かつ浄化された海の味」とでも表現してみるか…。実に、旨すぎる。

 後で家に帰り、再び食ってみたが、あの海の上で食べた「獲れたての味」とはすでに少し違っていたことも付け加えておこう。


 さて海で旨かったものがもうひとつある。それは当地で「海そうめん」と呼ばれている海草である。岩場の表面、海水に洗われている場所にくっついている褐色の、確かに麺状の物体である。一風氏に促され、生えているソレをむしり取り、ツルツルと食ってみると、あっさりとした味とそのプリプリした歯ごたえは絶妙絶品。三杯酢かポン酢で食せば、ひょっとしたら「海草の王者」と呼んでも大袈裟ではないと思われる。実際その夜、居酒屋で茹でたものを食したが、歯ごたえは最高であった。この海草については「アメフラシの卵」説があるようだが、いや、間違いなく「海草」である。


 さてさて、一風氏がエイリアンの卵と称したフジツボの話である。ちょっと分りにくいかも知れぬが、直径3センチ、高さ4センチだと思ってもらいたい。フジツボの小さなものは良く見るが、こんなでかいのはもちろん生まれてはじめてである。これは一風氏がわざわざ青森から取り寄せてくれたシロモノである。よく見るとまだ生きていて、ご覧のように時々、嘴が割れて、黒い不気味な触手がゆっくりと這い上がってくる…。

 「これを…食うのか…?」

 お互いに目と目で意思確認する我々であった。ひとつを割ってみると、どろりとした透明なゼリー状の中に、黄色い卵様の、これまたどろりとした・・・けっして食欲をそそる見かけではない。啜って、ともかく、口に入れた。海水の味の中に、かすかにウニの味がしたが、それは多分黄色い部分であろう。多分、茹でたほうが食いやすく、味も分るにちがいないと、我々はそれをその場で茹でた。

 コレである。茹でて冷ましたほうが、味が良く分る。白い部分はあっさり味のカニを上品にしたような味わい。黄色い部分はこれまたウニを上品にした味と言ったら良かろうか。珍味と言えば、珍味にちがいない。しかし可食部分の絶対量が少ないのは、このエイリアンが市場に出回らない理由のひとつであろう。

 エイリアンを食す私と一風氏。一風氏の笑いはかすかにヒキつっている…。 


 カメノテも食った。私ははじめてカメノテなるものを知ったが、なかなか旨いものである。ただしコレも可食部分が少なく、到底メジャーにはなりきれぬ運命を持っている。

 コレを食うことになったのはリンク仲間の魚菜氏のお陰である。実に変わった生き物である。生ではフジツボ同様あまりピンとこないので、塩茹でにし、爪の下のザラザラした皮を剥がすと、白っぽい身が現れるので、それを啄ばむように、食う。貝柱様の歯ごたえで、味も貝に近く、なかなか旨い。


 加茂市に帰る途中…日本海の夕焼けを見ることが出来た。暮れなずむ夏の日の爽やかで荘厳な一瞬である。

 明日はブナの森が我々を待ってる。


OUT DOOR

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