クマちゃんに出くわした話


 最近クマ出没のニュースが多い。今年は山里への出現回数が異常に多い・・・通年の10倍以上であるらしい。その日の朝のニュースでも「最近どうやらクマが岐阜県側から福井県側に移動したと見られます・・・」と統計的な観点で話していた。我々はともするとニュースに鈍感である。TVの中の出来事(とくに事件)は現実と分かっていても、心のどこかに「遠い世界の出来事」とつい感じてしまう癖がついてしまっているという意味で、鈍感なのである。

 11月の初旬、その日は快晴で、私はオフロードバイクのYAMAHAセローに乗り、晩秋の温見峠を気持ち良く走っていた。峠道は台風による崩落で以前から通行止めであったが、そこはバイク、崩落の横をすり抜けて・・・誰もいない林道を独り占めして喜んでいた。ブナの原生林が残っているこの辺りへは15年程前には何度か来ている。当時この谷で尺を軽くオーバーする岩魚を取り逃がしたこともある。一ヶ月ほど前にもここに来たのだが、その時は峠で雨が降り出して帰ってきたので、晴天の今日は福井まで抜けるつもりであった。

温見峠から岐阜県側を望む

 途中バイクを降り、ブナ林を歩いて探索する。先日来た時はハタケシメジやらナラタケを見たが、そろそろナメコが出てもいい頃だ。しかし美しい紅葉の中を歩いていると、少し離れたところで「パキパキ・・・」と枝の折れる音がした。車も近くに止まっていないし、第一通行止めだ。枯れ枝を踏むその音は小さな獣のものでは無かった・・・「クマ???」私は急に不安になり、急いでそこを離れてバイクに乗り込んだ。こんなところでクマに襲われたら誰も助けに来てくれない。携帯電話も圏外だ。クマよけの笛を持ってくればよかった・・・。ま、今日はバイクを楽しむことにしよう。私はナメコを諦めて出発した。とまあ、こんな伏線もあったのだ。

 温見峠を福井県側に抜けると、突然道が険しくなる。おおむね日本海側の山は急峻だから道もツヅラ折れのヘアピン連続となるのである。で、福井県側に入ってほんの1kmも行かないうちに・・・。カーブを曲がったとたん、約50mほど先で黒い物体がこちらに向かって走ってくるのが見えた。その黒い物体がクマであると頭が理解するのに、数秒かかった・・・。私はバイクのブレーキをかけ、足をつきそこに止まった。そうすると黒い物体のほうも、こちらを見て、止まった。果たして、歓迎すべからぬ睨めっこがしばらく続いたのである!。その距離、30〜40mほどか。

クマ遭遇現場(この先のカーブの先)

 クマが人間を見たら逃げるなんて、大嘘をついたのは誰だ!。そのクマはいったん立ち止まってから、なんとこちらに歩いてくるではないか!!。真っ黒なツキノワグマの親熊である。 よくマンガでは可愛く描かれているが、真っ黒で目元も少しも可愛くない!。道は写真のような細い断崖路で、バイクをすぐにUターンできない(技術も無い)。ノロノロ切り返していたら、後ろからクマに襲われるかもしれない。私は焦って、とっさにバイクのエンジンを大きく空吹かしさせてみた。ブロロロ〜ン、ブロロロ〜ン・・・その音に驚いたのか、クマは一瞬ビクン!と体を震わせ、今度は後ろ向きに走り出して、カーブの先に逃げ、見えなくなった。写真で分かるとおり、この道はたとえクマでも登ったり降りたりはできない場所で、道を引き返すしかないのである。・・・私はよほど前に進もうかと考えたが、やはり出来なかった。この道ではクマがまだカーブの先にいる可能性のほうが高い。下手をしたら1頭とは限らない。もし一族郎党・・・群れかなんかでいたら・・・今度こそ助からない。私は自分がどんどん臆病になっていくのを感じた。こういう時は決まって別の自分が「大丈夫、バイクに乗っているんだから絶対大丈夫。だから先に進め!!」と囁きかけるのであるが、しばらくの葛藤の末結局軟弱な私が勝利を収め、引き返すほうを選んだ。Uターンして100mほど戻ってこの写真を撮ったのである。クマに出遭って逃げ帰ってきた・・・こんな状況が私の精神を凋落させ、帰り道は少しブルーな気分であった。もし逃げたクマを追っかけていたら、気分はもっとハイだったことだろう。

 後日美容院で髪を切ってもらいながらこの話をすると、[macさんならクマと勝負できたでしょう!」と痛いところを突かれ、もうこの話は人に話さないことにした。どちらにせよ、温見峠は今のところ鬼門である。


 ところで私はこの5、6年で2度、クマに出遭っている。最初は春に明宝村と馬瀬村の境で、車の前を小熊が横断した。車を止めて写真を撮ろうとすると、さっと逃げていった。二度目は秋、富山県の有峰ダムの湖畔道路で、マイタケを探して笹薮の中に生えているミズナラを一本づつ見終わって、道に出て車に乗り込んだとたん、今私が出てきたところから大きなクマが出てきて、道を横断し、また藪の中に入っていった。このときは後でゾ〜ッ!とした。もし、笹薮の中で出会っていたら・・・そう考えると、怖いよねー。そして今回はバイクで遭遇したわけだが・・・さすがに緊張しました(笑)!。山に入る時は一風みたいに大型ワンコ連れて行くのが一番かもね。

041122記


 

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